働きながら育児している人はみんなすごい。

 未来を妄想する若者は一度は思い描くのではないだろうか。

 

 学校を卒業して就職、結婚、子どもを産んで家庭を築く。

 起業して仕事バリバリの社長になる。

 クリエイターになって有名人になる。

 

 仕事に専念する人生。家庭を持つ人生。とにかく有名・お金持ちになりたい。将来の希望は人それぞれだ。ただ自分の人生を妄想するうえで、多くの人は一度はいくつで結婚して子供は何人欲しいだとかを考えるのではないだろうか。

 

 当たり前の話だが、私たちには身体は一つしかない。

 そして妊娠・出産は女性の身体をとても強く拘束する出来事だ。

 

 妊娠期間の約10か月、妊娠前と変わらない生活を送れる人はごく稀で、たいていの人がなにかしら不自由を伴う。

 喫煙や飲酒はご法度。つわりは人によって程度も期間も異なる。ある人が大丈夫な時期でも別の人にとっては常に二日酔いのようなだるさと倦怠感を伴う。時に食事を一切受け付けなくなってしまい点滴や入院が必要になることさえある。

 また出産というのは、たとえ安産であっても全治半年の交通事後に匹敵するダメージを受ける。難産であった場合、出血多量で文字通り生死をさまようことさえある。本当に命がけの大仕事だ。

 そして産後の乳児のお世話は24時間フルタイム。最近は男性の育休取得も徐々に増えてきており、真剣に乳児のお世話に向き合うと性別関係なく産後うつになってしまうケースもある。過酷な仕事だ。

 もちろんそれだけの多くの過酷な大仕事をいくつも乗り越えて得られる、我が子の成長という喜びは他の物に代替しがたいものである。

 

 この長期間、身体を強く拘束する妊娠・出産・育児というものは仕事との両立を考えるうえでバランスを考えるのが非常に難しい。私たちの身体は一つだし、時間は1日24時間だけと限りがある。また適切な睡眠をとらなければ精神的余裕もなくなり、うつなどのメンタルヘルスを損なう状態に陥り重大な事件や事故を引き起こしてしまうことさえある。

 

 私たちより前の世代は、女性は結婚し出産するものだと選択肢はほぼ決められていた。結婚適齢期はクリスマスケーキと揶揄され、寿退社が当たり前の時代。それはそれで人生の選択肢がなく、仕事に熱中したい女性にとっては生きづらい世の中だっただろう。そして育児をしながらでも働きたい先駆者たちのおかげで産休育休制度や保育所等は整えられ、今は仕事を続けたい女性が続けやすい環境が整ってきている。

 しかし、今度はそのバランスで多くの女性たちは悩まされるている。

 育児にかかるリソースというのは子どもの特性で大きく異なる。身体が丈夫でめったに風邪をひかずに毎日保育園・幼稚園・学校に問題なく通える子。しょっちゅう風邪をひいて早退・お休みが続く子。学校等で対人関係に悩まされて登校できなくなってしまう子。

 こういった子どもの身体ケア・メンタルケアは社会の考えではまだまだ女性に求められることが多い。これが子どもの数だけ発生するのだ。

 育休から復帰し時短制度を駆使して仕事を続けていた女性たちが、子どもが小学校に進学をするのを機に退職してしまうケースがある。子どもの精神的安定に、大人との時間は非常に大切だからだ。しかし会社の時短制度は未就学児の期間だけに限定されており、子が就学した際にはフルタイムを求められることが多い。

 

 ここまで書いていて思うが、子どもを産み育てながら働いている人のなんと困難の多いことか。24時間働けますかのサラリーマンと専業主婦というロールモデルでできあがってしまった日本の労働環境・学校教育環境は、共働きが過半数となった今の社会に不適合になってきている。このギャップを減らすようにすり合わせていかなければ、不必要な不幸をより少なくすることができるのではないかと思う。

 

 制度が整ってきているとはいえまだまだ理解や共感が得にくいこの令和日本で、家族の幸せを願いながら日々働き育児をしているあなたは、ものすごいことをしているのだ。あっぱれ。