優しい社会とは

 新年度になり、こども家庭庁が始動したり、少子化社会対策大綱のたたき台が発表されたりと、子育て関連の政策の話題が飛び交っている。

 しかし現状として、子育て世帯や結婚を考えるであろう若者世代を取り巻く環境は非常に苦しいものだろう。以前に比べて重くのしかかる税金や社会保険料、大学の奨学金問題、物価高、長時間労働問題に低賃金問題。配偶者控除も共働きが主流の若者にとってはあまり恩恵がなく、こどもが生まれたとしても年少扶養控除はないので税制面での恩恵もない。

 さらにSNSではたびたび抱っこ紐のバックルを外される事件や、ベビーカーを蹴られたといった親子(主に母親)の声や、子どもの素行に対しての厳しい親へのバッシングなど、社会として子どもを受け入れられていない空気が漂う。もちろん悪目立ちの可能性も高いが。

 

 先日、私は子どもをベビーカーに乗せてとある公園にやってきた。朝早かったためか、公園には私と息子の他にはもう一組の親子しかいなかった。そのもう一組の親子は、インド系と思わしき小学生くらいの子ども3人と乳児を抱えた母親だった。小学生組3人が仲良く遊ぶのを、ベンチに座りながら見守り末の子をあやす母親。なんとも優しい空気がそこにはあった。

 私とその母親はお互い言葉は交えずとも存在を認識しあい、自分の子どもも相手の子ども優しく見守りあった。あちこちに走り回る息子を私はおいかけ、小学生のお兄さんお姉さんも優しく遊具の使う順番を守ってお互いのペースで公園という公共の場を満喫していた。

 30分ほどして息子は疲れが見え始めて、ベビーカーに乗るようにと誘導した。最近の息子は何でも自分でやりたがる時期で、ベビーカーによじ登るのも自分、安全のためのバックルを締めるのも自分でやらないと大泣きする。大人がやれば、息子をひょいと抱き上げて座らせてバックルを締めて出発するのに5分もあれば事足りる。しかしそれをやるとそのあと息子が大音量で泣き叫ぶことを知っているので、私は敢えて息子が自分でベビーカーに乗るのをただ見守った。

 ボルダリングさながらに、私が抑えるベビーカーに懸命によじ登る息子。それだけで5分はかかった。それでも無事に座席に腰をかけることができたその時、遠くから拍手が聞こえた。音の方を見れば、あの母親が、まるで自分の子供のことのように喜んで拍手をしていたのだ。

 その後、バックルを締める作業に入った息子を見て、今度は「がんばれ、がんばれ」と声をかけてくれたのだ。これもまた、息子はまだ力が弱く手先もおぼつかないので時間がかかった。しかし、無事一人で全てを終えたのを見届けて、「できたね」とほほ笑んでくれた。もちろん、私と息子はこの母親とは初対面である。それでもこれほど見守られていることへの安心感があった。

 

 子育てをしていると、時々不安になることがある。特に育休中や専業主婦など、自分と子ども1対1の時間が多い時期は社会からの孤立感が大きなストレスとなる。目を離すと命を失ってしまう可能性を秘めた赤子を常に意識しなければならない生活は精神的に追い詰められることと、子どもの成長に保護者という少数の大人で責任を持たなければならない長期間に及ぶ重責感。

 しかし、親である自分以外の大人にも我が子の成長を見守ってくれる人がいることは、ひとつの安心感になる。私の場合、それは保育園の先生であったり、子育て支援センターにいる相談員であったり、子育て支援センターで知り合ったママ友であったり、こうして一期一会の公園や出先で出会う大人であったり。

中にはスーパーの買い物中で一言だけ「あら、かわいいわね」と声をかけてくださる先輩ママさんたちもいたりして、精神的に大変助けられている。自分と子どもが社会に受け入れられていると感じるのはこういう時だ。

 子どもが健やかに過ごしている。その姿を見るだけでほっとする安心感。もちろん子どもは常に笑顔で過ごしているわけではない。時には公共の場で泣いてしまう子どももいるだろう。しかしそういった時に、「邪魔だな」とは思わずに「大変だな、お疲れ様」と思えるような社会が優しい社会なのではないだろうか。そして子どもがルールを破って危険な行動を取っている時に、近くに居合わせた大人が「それは危ないからやめなさい」と冷静に声をかけられる社会。

 社会全体で子どもを見守り、育てる社会が「子育てに優しい社会」ではないかと私は思う。

 

 中には悲しいかな、「子連れ様」や「妊婦様」といった呼称で一部の人間の言動を批判する人もいる。しかし、どの属性にも行動が酷い人間はいる。悪目立ちしている一部の人間を、あたかもその属性全体が悪いと印象付ける思考法は、理性的な人間のすることではないと思いたい。

 

 社会が優しくなるためには、まずは自分が手の届く範囲で人に優しくすること。そうした個々人の優しさの積み重ねが、社会に優しい空気を生み出す。

 

 そして政治の面ではこの4月、あらゆる地方自治体で選挙が行われる。中にはもう公示期間になっている自治体もあるだろう。国政選挙ではなく地方選挙だとしても、あなたの生活にかかわる大事な選挙である。もし可能であれば、自分の選挙区の候補者に直接重視している政策を聞くのをお勧めする。候補者は、投票する人間がどんなことに注目しているのかを常に意識している。候補者に大切にしてほしい意見を届けることが、生活をよくするための第一歩だ。

 そんな時間はない、けれども誰に投票すればいいか分からないし時間もないという方は、投票マッチングサイトを参考にするのほ一つの方法だ。

 

election.go2senkyo.com

 

 投票はあなたの生活を支える大切な行動。選挙当日に指定された投票所に行くのが厳しい場合、事前投票制度を利用するのも手だ。投票用紙を忘れてしまっても投票することはできるので、選挙当日に予定がある場合はぜひ利用してみるといいだろう。

 

 自分が生きやすい優しい社会を作るためには一朝一夕ではなしえない。日々の積み重ねである。まずは自分に優しく、そして身近な家族友人同僚に優しく。