兄弟コンプレックス

 私には2人の姉がいる。

 ひいき目なしに周りからも美人だと言われるし、家族の私から見ても姉たちは美人だ。

 1番上の姉は国立大を卒業するほど頭が良く、真面目でまっすぐ。計画的に物事を効率よくこなし、大きな失敗をほとんどしない。いかにもな長女だ。

 2番目の姉はとにかくコミュニケーション能力がすごく誰とでも仲良くなれるし、話が上手い。何か面白い話してよ、と急にふっても「むちゃぶり~」と笑いながらも最近実はこんなことがあってさ、と本当に面白い話を返してくる。

 

 私は三姉妹の末っ子として、そんな姉たちを見て育ってきた。

 親は比べないようにと気を使って育ててくれていた気はするが、当事者としてはどうしても自分と姉たちを比べてしまう。長女の方が私よりも頭がいい。長女の方が私よりも要領が良い。次女の方が人付き合いが上手い。次女の方がオシャレで人生楽しそう。

 私は姉たちのように美人ではないし、人付き合いも上手くない。

 

 このコンプレックスが一番爆発したのは就職活動の時だ。

 

 就職活動をするときに、自己分析をした。

 学生時代まで、自分はどんな経験を得たか。何を大切にし、何ができて、何が苦手か。自分とはどういった人間かを徹底的に見つめなおした。20代前半の人間が自分の半生を振り返ると、家族との関係というのはその大半を占める。私の場合、特に姉たちとの比較によるコンプレックスが大きかった。エントリーシートも上手く書けない、面接でも上手くいかないというネガティブな流れの時、思考も一緒に落ちていた。

 

 就職活動の先輩として姉たちにエントリーシートを添削してもらったこともあった。そしてそれぞれの添削結果を見て、ああ、やっぱり私はいつまでたっても姉たちのようにはなれないと泣き出した。辛かった。優秀な姉たちと、劣等生な自分。その図がいつまでも頭から離れず、そんな自分は誰かから選ばれることなんてきっとない。そんなほの暗い思考がこびりついて離れなかった。

 

 一度だけ、長女に面と向かって愚痴ったことがある。

 

 私はお姉ちゃんみたいに頭は良くない。美人じゃない。彼氏もいないし、モテないし、就職活動も上手くいかない。どうやったってお姉ちゃんみたいにはなれない。と。

 

 その時長女から言われた。

 

 「私だってあんたに比べたら、自分の感情を表現するのが上手くいかなくてイライラする。親の目を気にしすぎて挑戦をあまりすることができなった。やりたいことが明確で、あれこれやってみようとする妹たちを見て羨ましいってずっと思ってた。」

 

 真面目で親の期待に応え続けてきて、両親にとって間違いなく自慢の娘だと言われていた長女も、私と同じく兄弟コンプレックスを抱えていたのだ。

 

 のちに次女とも話したときに言われた。

 

 「私は長女やあんたみたいに勉強得意じゃないからさ、もう別の道でやってくしかないな~って思ってたんだよね。同じ土俵で勝負しても無理だもん。二人みたいにもうちょっと頭良ければいいのになって思う事もあったけど、結局自分は自分じゃん?」

 

 三者三様に、兄弟コンプレックスを感じていたのだ。私だけではなかった。優秀な兄姉に苦しむ弟妹もいれば、要領や愛想のいい弟妹をうらやむ兄姉もいるのだ。

 

 他人と自分を比べてはいけない。そういう言葉はよく聞くけれども、どうしても比べてしまうのが人間の性である。ましてや幼少のころからずっと同じ環境で育った兄弟となら尚の事。

 

 家族で血のつながりがると言えど、しょせん他人は他人だ。羨んだところで自分が変われるわけではない。そんな自分と一生付き合って生きていくのだから、できない事もひっくるめて自分を許してやるのだ。自分が自分を許せないのであれば、変われるように自分で努力をしていくしかない。

 

 そのことに気づかせてくれたのも、二人の姉がいてくれたからこそかもしれない。