誰からも嫌われないようにしなきゃいけない、という呪い。

 小さいころ、私は人から嫌われることがとても怖かった。

 幼かった私は素敵な人になりたかった。どんな人が素敵な人なのかを深く考えずに、「素敵な人ならだれにも嫌われない」と信じて疑わなかった。

 誰からも嫌われないようにルールをしっかり守り、先生の言うことをよく聞き、友達からのお願いはたいていのことは承諾し、勉学にも励み、苦手なスポーツにも積極的に取り組んだ。言われたことはすべてやらねばならない事だと。

 成績は上がった。優等生に見られた。そして一部の級友からやっかみを買うようになってしまった。精一杯自分を律し、素敵な人になって誰からも嫌われないはずなのに。

 先生からの信頼は厚くなり、一部の友人たちには好かれる反面、私のことをよく思っていない人の顔色が常に気になるようになった。今振り返ると、精神的にかなり不安定な状態にあった。

 

 振り切れるようになったきっかけは、そんな私のことをよく思っていない人が言っていたある言葉。

 

「誰からも嫌われない人間って、つまりは誰からも好かれない人間でしょ」 

 

 当時私はこの言葉にとても衝撃を受けたのを今でもよく覚えている。大人となった今ではよくわかる。ロバと老夫婦の話のように、何をしたって文句を言う人は必ず言うのだ。どんなに親切に接したとしても好きになれない人はいるし、また親切に接したからと言って誰からも好かれることはあり得ないのだ。

 

 そもそも私はなぜ人から嫌われるのがあんなに怖かったのだろうか。記憶はあいまいで明確な原因は今では思い当たらないが、おそらく母や幼稚園の先生から言われた「みんな仲良く」だと思っている。友達と仲良く遊ぶことともちろん良いことだ。しかし、たまたま住んでいる場所が近くて同じ年に生まれたという共通点だけで集められた集団で、趣味嗜好が全く違う人も含めてみんな仲良くというのは、冷静に考えれば到底無理な話である。

 なので私は自分の子どもたちに「みんな仲良く」はできるだけ言わないようにしている。

 

 趣味が合う、好きな友達と遊びなさい。

 嫌いな友達がいてもいいけど、親切にするのよ。

 

 同じ呪いが自分の子供たちにかからないように、小さい頃の自分を慰めるように。

 

 

私がとらわれていた「しなきゃ」

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