公教育は今

 あなたは工藤勇一という人物を知っているだろうか。

工藤勇一氏は2014年から千代田区麹町中学校校長となり、宿題廃止や定期テスト廃止、固定担任制廃止などこれまでの学校教育の当たり前をいくつも改革し教育関係者やメディアで取り上げられた教育者だ。

 彼の教育改革の狙いはいったい何なのか。私は彼の著書の一つに手を伸ばした。

 

 「麴町中学校の型破り校長 非常識な教え」(SB新書/工藤勇一)

 

 本書は、非常識な教えというよりも教育の本来の目的をとても大切にしている内容だと感じた。

 例えば、宿題で漢字の書き取りを10回ずつするという内容があったとする。この宿題の本来の目的は漢字を覚えること。しかし宿題という形で「〇〇回書き出せ」、と手段に過ぎないものを目的にすり替えてしまい、やらされ感を増幅してしまっている。これでは子どもも嫌々勉強するという姿勢になる。

 また、勉強で覚えた内容を社会に出た時に役立てるというよりも、学習計画を立てる段階であったり、スケジュール管理であったり、目標に向かって物事を動かす練習であったりと、勉強という手段を使って成功体験や失敗体験、自己と他者の関係を構築する方法など、非認知能力の育成に重きを置いていることが本書からも伝わってきた。

 

 なるほど、日本の公立の、しかも中学校でここまで教育改革を実践しているとは実に素晴らしい。同じような取り組みをしている他の公立の学校はないものか。

 

 ・岐阜市立岐阜小学校

 ・金沢市西南部中学校

 ・世田谷区桜丘中学校

 ・広島市立中学校数校

 

 まだまだ同様の取り組みは広がっていないようだ。さらに、この公立学校の改革を行った工藤勇一氏は2020年度より神奈川県の私立、横浜創英中学・高等学校の校長に着任されたらしい。工藤勇一氏が去った後の千代田区立麴町中学校は改革の名残は残るもの、少しずついわゆる普通の公立中学校に戻っていっているらしい。

 結局、優秀な人間は民間に流れ出ていってしまうのか。非常に残念である。

 我が家の子供たちはまだ未就学児なので小学校、中学校、高校といった教育環境に身を置くのはまだ先だが、子どもの教育環境についてのアンテナは常に貼っておきたい所存である。